ていたのである。
「だから、手当々々とやかましく言うたんです。こんなになるまでほっとくとは呆《あき》れましたな。――お痛いですか」
「その腫れではたまらんでしょう。我慢出来ますか」
「駄々をこねるなという言いつけじゃ。駄々はこねん。気に入るように始末せい‥…」
 まるで意志のない人のようだった。
 さだめし、たえられぬほども痛いだろうと思われたのに、直人は、じっと金丸たちの腕にだかれたまま、身動きもしなかった。

         六

 しっとり暮れて、九月の秋の京の夕ぐれは、しみじみとしてわびしかった。
 かわたれどきのその夕闇を縫《ぬ》い乍ら、落人《おちゅうど》たちは、シャン、シャンと鈴の音《ね》を忍ばせてすべり出るように京の町へ出ていった。
 直人はひとことも口を利かなかった。意志がないばかりか、まるでそれは、僅かに息が通っているというだけの、荷物のようなものだった。
 腹が減ったでしょう、食べますか、と言えば、黙って食べるのである。お疲れでしょう、泊りますか、と言えば、黙って泊るのである。
 しかし、そんなでいても不思議だった。馬が歩けば、馬上の荷物も自然と歩くとみえて、京を
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