ったふたりの目の前へ、金丸が勢いこんで飛びこんで来たのである。
「道があけた! 先生すぐお出立《しゅったつ》のお支度なさいまし! ――小次も早く支度しろ」
「逃げられそうか!」
「大丈夫落ちられる! 東海道だ。どういう間違か、ひょんな噂《うわさ》が伝わってのう。先生らしい風態《ふうてい》の男が、同志二人とゆうべ亀山口から、東海道へ落ちたというんじゃ。それっというので、海道口の固めが解けたのよ。このすきじゃ。追っ手のあとをあとをと行くことになるから、大丈夫東京へ這入られる。――かれこれと駄々はこねんというお約束です。道中、お歩きもなるまいと思うて、こっそりと駅馬《えきば》を雇うて参りました。すぐお乗り下さいまし!」
 否《いな》やを言うひまもなかった。――せき立てるように駈けあがって、くるくると身のまわりのものを取りまとめると、金丸は、ひとりで心得乍ら、直人の身体をだきあげた。
 しかし、同時に、小次郎もその金丸も、思わずあっと、おどろきの声をあげた。
 五日の間に、すっかり踵の弾傷《たまきず》は悪化していたのだ。
 しかもいち面に膿《のう》を持って、みるから痛そうに赤く腫《は》れあがっ
前へ 次へ
全35ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング