落ちてから四日目の夕方、水口《みなくち》から関ヶ原を廻ってかくれ街道を忍んで来た落人たち三人は、ようやく名古屋の旧お城下へ辿《たど》りついた。
 蕭条《しょうじょう》とした秋雨が降ったり止《や》んだりしている夕ぐれだった。
「しみったれた宿では気が滅入《めい》っていかん。景気のよさそうな奴を探せ」
「あの三軒目はどうじゃ」
「なるほど、あれなら相当なもんじゃ。めんどうだからこの辺で馬もかえせ。あすからは駕籠《かご》にしよう。乗物もちょいちょいと手を替えんと、じき足がつくからのう。――あの宿です。先生。泊りますぞ。おうい、宿の奴等、お病人じゃ。手を貸せ」
 万事、おまえらまかせの直人は、ふたりが決めたその宿へ、ふたりの言うままに、黙々とだかれていった。
「どうします。先生。すぐに夕食を摂りますか」
「それとも、傷さえ浸《つ》けねばいいんだから、久方ぶりにひと風呂浴びますか」
 道中、痛そうな顔さえもしなかったが、今宵《こよい》ばかりは、よくよくこらえかねたのである。
「痛い。寝たい……」
 言うまもずきずきするとみえて、ぐったりと横になり乍ら、痛そうに眉《まゆ》を寄せた。
 すぐに、ふっ
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