らあ! 憎くもないのに、斬った昔は斬ったと言うてほめられたが、憎くて斬っても、これからは斬ったおれが天下のお尋《たず》ね者になるんだからのう。――勝手にしろだ。おれは寝る。おまえらも勝手にしろ」
「だめです! 先生! 手当もせずに寝たら傷が腐るんです! せめてなにか巻いておきましょう。そんな寝方をしたら駄目ですよ!」
「うるさい! 障《さわ》るな! ――腐ったら腐ったときだ……」
はじき飛ばして、横になると、遠いところをでも見つめるように、まじまじと大きく目を見ひらいたまま、身じろぎもしなかった。
五
それっきり直人は、四日たっても、五日たっても起きなかった。
眠っているかと思うと、いつのぞいてみても、パチパチと大きく目をあいていて、ろくろくめしも摂《と》らなかった。次第に小次郎たちふたりは、じりじりと焦り出したのである。
「どうするんですか。――隊長」
「…………」
「東京へ逃げるなら逃げる、西へ落ちるなら落ちるように早くお決め下さらんとわれわれふたり、度胸《どきょう》も据《す》わらんですよ」
「勝手に据えたらよかろう」
「よかろうと仰有《おっしゃ》ったっ
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