座候《ござそうろう》の、参与《さんよ》で侯のと、御新政をひとりでこしらえたような顔をしちょるじゃないか。――斬ってやって、奴等を出世させたこのおれは、相変らず毛虫同然の人斬り稼業さ」
「いいえ! 違います! 隊長! 隊長は馬鹿々々しい馬鹿々々しいと仰有《おっしゃ》いますが、斬った八人はみんな、天下国家のために斬ったんでがしょう!」
「がしょう、がしょう、と思うて、おれも八人斬ったが、天下国家とやら、このおれには、とんと夢で踏んだ屁《へ》のようなもんじゃ、匂いもせん、音もせん、スウともピイともこかんわい。――ウフフ……馬鹿なこっちゃ。只のいっぺんでいい! 頼まれずに、憎いと思って、おれが怒って、心底《しんてい》このおれが憎いと思って、いっぺん人を斬ってみたい!」
「斬ったらいいでがしょう!」
 青い顔が、ギロリと光って、目が吊った。
「きっといいか!」
「いいですとも! 人斬りの名を取った先生がお斬りなさるんだから、誰を斬ろうと不思議はごわせんよ!」
「…………」
 けわしくにらみつけ乍ら、まじまじとふたりの顔を見つめていたが、ごろり横になると、吐き出すように言った。
「お時勢が変ってお
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