四
うまく危険をのがれたのである。
薩摩屋敷の塀に沿って、まっすぐ上岡崎《かみおかざき》へぬけると、この刺客たちが黒谷の巣と称していた光安院は、ほんのもう目と鼻だった。万一のことがあっても、あの寺の住職ならばと大楽源太郎の添書を貰って、根じろにしていた寺だった。
何のために上洛《じょうらく》したのか、うすうすその住職は気がついているらしかったが、なにを言うにも今斬って、今逃げて来たばかりなのである。血のついたこの姿をまのあたりみられてはと、三人は盗むように境内《けいだい》を奥へ廻って、ねぐらに借りていた位牌堂の隣りの裏部屋へ、こっそり吸われていった。
「骨を折らしやがった。ここまで来ればもうこっちの城だ。丸公《たまこう》。まだいくらか残っているだろう。徳利をこっちへ貸してくれ」
たぐりよせるように抱えこむと、立てつづけに小次郎は、ぐびぐびあおった。
「どうです。先生は?」
「…………」
「おやりになりませんか、まだたっぷり二合位はありますよ」
しかし直人は、見向きもせずに、ぐったりと壁によりかかって、物憂《ものう》げに両膝をだきかかえ乍ら、じっと目をとじたま
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