同時に女の態度がガラリと変った。
「追っつけ旦那が来るんです。来たら今の奴等よりもっと面倒になるから、早く逃げて下さいまし」
「先生々々。もう大丈夫ですよ。足音も遠のきましたよ! このすきだ。早くお逃げなさいまし!」
井戸から這い出して、小次郎たちふたりもせき立てた。
しかし、直人は不思議なことにも動かなかった。
「気味のわるい。どうしたんですえ。まさか死んだんじゃあるまいね」
怪しんで、のぞこうとした女が、
「まあ、いやらしい! なにをしているんです!」
目を吊りあげて、パッと飛びのいた。
鼻を刺す移り香を楽しみでもするように直人は、しっかりと女の枕に顔をよせて、にやにやと笑っていたのである。
「けがらわしい! 危ない思いをしてかくまってあげたのになんていやな真似《まね》をしているんです! そんなものほしければくれてやりますよ! 今に旦那が来るんです! とっとと出ておいきなさいまし!」
「すまんすまん! アハハ……。つい匂うたもんだからのう。ほかのところを盗まんで、しあわせじゃ。旦那によろしく……」
けろりとし乍ら這い出ると、直人は、にやにや笑い乍ら出ていった。
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