木戸の中へ駈けこんだ。
奥まった小座敷らしいところから、ちかりと灯が洩《も》れた。――三人は夢中だった。灯を追う虫のようにその灯を追って、まっしぐらに飛びこんだ。
しかし、同時に、先ず小次郎がたちすくんだ。金丸も立ちすくんだ。あとから駈けこんだ直人も、はっとなって立ちすくんだ。
まさしく誰かの妾宅とみえて、その灯の下には、今、お湯からあがったらしい仇《あだ》っぽい女が、うすい長襦袢《ながじゅばん》をいち枚引っかけたままで、すらりと片膝を立て乍ら、せっせとお化粧をしていたのである。
ふり向くと一緒に、険《けん》のある女の目が、ぐっと三人をにらみつけた。――咄嗟に、小次郎が、バッタのように手をすり合わせて言った。
「追われているんです! かくまっておくんなさい」
いいもわるいもなかった。構わずに座敷の中へおどりあがって、あちらこちら探していたが、お勝手につづいた暗い土間に、うち井戸の縄つるべがさがっていたのをみつけると争うように金丸と飛んでいって、左右の縄へつかまり乍らするすると井戸の中へ身を忍ばせた。
あとからあがって、直人も、まごまごし乍ら探していたがほかにもう身をひそませ
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