である。刹那《せつな》に、バタバタとその影が走り出すと走り乍らけたたましく呼び子を吹き鳴らした。
同時に、街のかなたこなたから、羽音のような足音が近づいた。
「小屋へ飛びこめっ。あの左手の黒い建物が、非人小屋じゃ! あれへかくれろっ」
キリを揉《も》むような足の苦痛をこらえて、神代は、ふたりをせき立て乍ら、まっしぐらに非人小屋の中へ駈けこんだ。
しかし、どうしたことかその小屋は、がらあきだった。いつもは二百人近い非人がたかっているというのに、人影はおろか、灯影《ほかげ》一つみえないのである。
そのまにも、捜索隊の足音は、ちらちらと提灯の光りを闇のかなたにちりばめて、呼び子の音を求め乍ら、バタバタと駈け近づいた。
「生憎《あいにく》だな! 薩摩屋敷まではとうてい逃げられまい。どこかにかくれるうちはないか!」
焦《あせ》って、見探していた三人の目は、はからずも道向うの一軒の木戸へ止まった。ここへ這入れ、と言わぬばかりにその木戸がぽっかりと口をあけていたのである。
なにをする家《うち》か、誰の住いか、見さだめるひまもなかった。脱兎《だっと》のように三人は、小屋から飛び出して、その
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