夫でござりまするか!」
「痛いが、逃げられるところまで逃げてゆこう。そっちへ廻れっ」
 苦痛をこらえて神代は、ふたりの肩につかまり乍ら、這《は》うように河原を北へのぼった。
 二条河原から、向う岸へのぼれば、さしあたりかくれるところが二ヵ所ある。悲田の非人小屋として名高いその小屋と、薩摩《さつま》屋敷の二ヵ所だった。無論、薩摩屋敷へかくれることが出来たら、金城鉄壁だったが、つねに百五十人から二百人近い非人が密集していると伝えられている悲田のその小屋へ駈けこんでも、当座、身をかくすには屈強の場所だった。
「岸をしらべろっ。灯はみえんか!」
「…………」
「どうだ。だれか張っていそうか!」
「――いえ、大丈夫、いないようです」
「よしっ、あがれっ」
 いないと思ったのに、灯を消して、じっとすくんでいたのである。ぬっと顔を出した三人へ、
「誰じゃっ」
 するどい誰何《すいか》の声がふりかかった。――しかし、みなまで言わせなかった。富田も小次郎も、斬りたくてうずうずしていたのだ。
 スパリと、左右から青い光りが割りつけた。
 それがいけなかった。
 ひとりと思ったのに、もうひとりすくんでいたの
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