い、せめて髪の毛でも切って持っていってやりたいが、のそのそ出ていったら、まだちっと険呑《けんのん》じゃ。ともかく黒谷《くろだに》の巣へ引きあげよう」
先へ立って、河原伝いに歩きかけたその神代が、不意にあっと声をあげ乍らつんのめった。
「しまった! そういうおれもやられたぞ」
「隊長が! ――ど、ど、どこです! どの辺なんです!」
「足だ。左がしびれてずきずき痛い! しらべてみてくれ!」
夢中で知らずにいたが、屋根から逃げるときにでも一発うけたとみえて、左の踵《かかと》からたらたらと血を噴いていたのである。
しかし、手当するひまもなかった。
静まりかえっていた街のかなたこなたが、突然、そのときまた、思い出したようにざわざわとざわめき立ったかとみるまに異様な人声が湧きあがった。
と思うまもなく、ちらちらと、消えてはゆれて、無数の提灯《ちょうちん》の灯が、五六人ずつ塊《かたま》った人影に守られ乍ら、岸のあちらこちらに浮きあがった。
京都守備隊の応援をえて、大々的に捜索を初めたらしいのである。
「危ない! 肩をかせ! このあん梅ではおそらく全市に手が廻ったぞ。早くにげろっ」
「大丈
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