うかが》っているらしい気配がつづいていたが、やがて太い声が湧きあがった。
「もうよさそうだな。――おい」
「…………」
「おいというに! 誰もおらんか!」
「ひとりおります。もう大丈夫でござりまするか」
「大丈夫じゃ、早く出ろ。誰だ」
「市原でごわす」
「小次か! おまえもずぶぬれだのう。もう誰もおらんか」
「いいえ、こっちにもひとりおります」
ジャブジャブと水を掻き分けて、河の真中《まんなか》の向うから、また一つ黒い影が近づいた。
富田金丸だった。
こやつも水の中へ、首までつかり乍ら、じっとすくんでいたとみえて、長い腰の物の鞘尻《さやじり》から、ぽたぽたと雫《しずく》が垂れおちた。
「どうやら小久保と、利惣太がやられたらしいな。念のためじゃ、呼んでみろ」
「副長! ……」
「…………」
「石公! ……。利惣太……」
呼び乍ら探したが、しかし、どこからも水音さえあがらなかった。
銃声と一緒に、ころがり落ちたのは、やはりそのふたりだったのである。
「可哀そうに……。えりにえって小次と丸公《たまこう》とが生き残るとはなんのことじゃい。おまえたちこそ死ねばよかったのにのう。仕方がな
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