る場所もなかった。
只一つ目についたのは、隣りの部屋の屏風《びょうぶ》の向うの寝床だった。
「この辺で消えたぞ」
「この家が臭い!」
「這入れっ、這入れっ」
表の声は、今にも乱入して来そうな気配なのだ。
直人は、せき立てられたように、隣りの部屋へ駈けこんだ。――しかし、同時に、われ知らず足がすくんだ。
寝床は寝床だったが、ふっくらとしたその夜具の中には、旦那のおいで、お待ちかね、と言わぬばかりに、仲よく二つの枕がのぞいていたのである。
ためらい乍ら、まごまごしているのを、突然、女がクスリと笑ったかと思うと、押しこむようにして言った。
「しょうのない人たちだ。二度とこんな厄介かけちゃいけませんよ。――早くお寝なさいまし」
意外なほどにもなまめいた声で言って、咄嗟に気がついたものか、座敷に点々とおちている血の雫《しずく》の上へ、パッパッと一杯に粉白粉《こなおしろい》をふりかけておくと、ぺったり長襦袢のまま直人の枕元へ座って、さもさもじれったそうに、白い二の腕を髪へやった。
間髪《かんぱつ》の違いだった。
ドヤドヤと捜索隊の一群がなだれこんで来ると、口々に罵《ののし》った。
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