し……」
「よしよし。惚れ合っていると兎角こんなことになるんだ。こっちへどきな」
小作りの下総男、田舎じみた風体をしているが、なかなか扱いが馴れたものです、腰低く小侍たちに一礼すると、人中で騒ぎを起して、近所迷惑になってはならぬと言うように、ひたすらわび入りました。
「こちらこそ飛んだ粗相、本当に三平さんとやらがおっしゃる通りです。髪なんどこわれようとつぶれようと、また結い直せば済みますこと、もう追っつけ幕もあくことでござんしょうから、いざこざなしにきれいさっぱり旦那方もお引きあげなすって下せえまし」
「いざこざなしとは何じゃ。こっちで売った喧嘩でない。うぬらがつけた因縁じゃ。わびを言うならそのように法をつけい」
「だから、立つ腹もこっちが納めて、この通り下手《したて》からおわびを申しているんでごぜえます」
「なにッ。下手からとは何じゃ! その言い草が面憎い! こっちへ出い!」
「笑《じょ》、笑談《じょうだん》じゃござんせぬ。ごらんの通りわたしどもは田舎ものばかり、この人前で手前ども風情《ふぜい》を恥ずかしめてみたとて、お旦那方のご自慢になるわけじゃござんせぬ。騒ぎ立てたら、みなさま
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