今は必死――。
「お、臆されたかッ。で、ではわれ等の新手《あらて》がかかるゆえ、後につづかれいッ。――さ、かかれッ。かかれッ。ほうびじゃ! ほうびじゃッ! こいつさえたたんだら、あとはおれと妹の天下じゃ! ほうびは望み次第、つかみ次第! 千両でもやるぞッ。かかれッ。かかれッ」
 ほうびが千両! 望み次第というのにけしかけられたのです。人体よろしくない人山が、一せいに獰猛な歯をむき、サッと白刄をきらめかすと、わあッと異様な叫びをあげて、主水之介、菊路、京弥の三人めがけて襲いかかりました。
「京弥さま! しっかり!」
「菊路さま! おぬかり遊ばすな!」
 見事です! ひらり、ひらり、草原の嵐に舞う胡蝶《こちょう》のように、京弥の小姓姿と、菊路の振袖姿が、おしよせた一陣の中をかいくぐり、かいくぐり、右へ左へ、動いたかと思うと、
「あ!」
「うーん!」
 バタリ、また一人。
 バタリ、また一人。――まこと早乙女主水之介|薫陶《くんとう》の揚心流当身のものすさまじさ! 夜目にも玉をあざむく二人の若人の腕ののびるところ、鬼をもひしぎそうな大男の浪人姿がつぎつぎとたおれて、うしろからバラバラと、裏崩
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