出ろい! 下総の十五郎がかけつけたからにゃ、もう御前様にゃ、指一本ささせるもんじゃねえぞ。九十九里の荒浜でゴマンと鯨《くじら》を退治たこの腕で片ッ端から成仏さしてやらあ! 冥途急ぎのしてえ奴からかかって来い!」
「ひかえい! 十五郎!」
はやり立った十五郎を、主水之介、キッと押えました。
「仔細があるゆえ、そちは後ろにひかえろ! ――京弥! 菊路!」
「はッ」
よりそって進み出た二人へ、
「そちたちには腕だめしゆるすぞ。よき機会《おり》ぞ。日頃仕込んだ揚心流当身の術、心ゆくまで楽しむ用意せい」
「はッ」
りりしくもういういしくも、勇んで二人が身構えると、主水之介、お濠端の方へはまったく警戒をといたように、ぐるりと真正面から腰本一味へ向き直りました。烱々《けいけい》たる眼光が、白覆面を射通すように見すくめました。
「腰本治右衛門……この目をみい!」
「………」
「今のこの男の申し分、何ときいたぞ!」
「………」
「お小納戸頭取《こなんどとうどり》の重職すらいただく身が、漁師|渡世《とせい》の者よりこれほどまでにののしられて、上の御政道相立つと思うか! よこしまの恋に心がくらみ、御恩
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