ころ手で、ぬうッと立っているのを見定めた瞬間、何思ったか、主水之介の面ににんまりわいたものは不敵な微笑でした。同時に太い声が放たれました。
「アハ……。おもしろい。お相手仕ろうぞ…」
何ごとか期するところあるに違いない。左手《ゆんで》を丹田に右手《めて》を上向きにつきあげた揚心流水月当身《ようしんりゅうすいげつあてみ》の構え!
――素手《すで》で行こうというのです。しかも、ぐっと相手をにらんだその目の底には、明るい微笑が漂うたままなのです。
「これでまいる! 素手は素手ながら三河ながらの直参旗本、早乙女主水之介が両の拳《こぶし》、真槍《しんそう》白刄《しらは》よりちと手強《てごわ》いぞ。心してまいられい…」
「………」
「臆するには及ばぬ……遠慮も御無用!………額の三カ月傷こわかろうが、とっては食わぬ。腕一杯、踏んで来られたらどうじゃ」
広言にくしとはやったか、右の一槍が、夜目にもしるくスルリと光って、
「えいッ」
裂帛《れつばく》の気合もろともに突っかかったがヒラリ、半身《はんみ》に開いた主水之介の横へ流れて、その穂先は、ぐっと主水之介の小脇にかかえこまれてしまいました。
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