環をちぢめて来る。
八方にかこまれたままでは策はない。――今はこれ迄、と機をうかがって、パッと駕籠をはね飛ばすと、主水之介は、開いたその隙をものの見事な一足飛び――が、瞬間、崩れたとみえた短槍の包囲陣は、間もおかず半月形に立ち直って、無言のまま、またもじりじりと、主水之介へつめよせて来ました。
影はやはり八ツ。しかもまことに整然そのものと言いたいみごとな構え、態勢です。
只者ではない!
腰本治右衛門の一味か――、当然起る疑問です。が、それにしては態勢がみごとすぎる。
なら、将軍家の御機嫌を損《そこな》った溝口豊後が主水之介の口を永久に封じて、首尾つくろい直そうと放った刺客か――。
主水之介の眼は不審にきらめきました。鋭く闇に動くその眼に、ふと、更に三つの影が映りました。槍襖の向うから、一つの影に二つの影が守るように寄り添って、じっと形勢を窺っているのです。
「………?」
探るように主水之介の眼は、短槍の列を越えて、向うの三つの影へ喰い入りました。――その真中の影が、殺気をはらんだこの対峙《たいじ》を前にして、これはまた何としたことか、鷹揚《おうよう》そのものといいたいふと
前へ
次へ
全89ページ中74ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング