かすと、槍、槍、槍、四方、八方、槍ばかりです。
 三本、四本。
 六本、八本。
 いずれも短槍《たんそう》でした。
 もも立ち取って、すはだしの黒頭巾、しかも侮《あなど》りがたい構えなのです。
 無言のままぴたりとその八本が八方から穂先をつけて、じりじりと主水之介の身辺へにじり迫りました。

       一五

 何者?――
 一瞬主水之介の目が、稲妻のように光りました。
 御定紋なるかな、御定紋なるかな、と、これある限りたとえいかなる狼藉者といえども、刄向う術《すべ》はあるまいと思われたのに、そのお胸前が眼に入らぬのか、それとも知りつつ不敵な闇討かけたか、もし知ってなお恐れもなく刄向う者ありとしたら、容易ならぬ刺客に違いないのです。
「うろたえ者めがッ。この御定紋、目に入らぬかッ。うかつな真似致すと取りかえしつかぬぞッ」
 だが、不敵です。火のような主水之介の一|喝《かつ》も耳に入らぬのか、駕籠先につけたお胸前の葵の御紋は、陸尺たちが取り落して燃え上がっている提灯の火にあかあかと照し出されているというのに、刺客の影はビクともしないのです。ばかりか、無言のままじりッ、じりッと、包囲の
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