ような濃い闇です。
「供! 主水之介じゃ。供の者はおらぬか」
「あッ。おかえり遊ばしませ。よく、御無事でござりましたなあ」
「眉間の傷はのう。お城へ参っても有難い守り札じゃ。上様《うえさま》はいつもながらの御名君、先ず先ず腹も切らずに済んだというものじゃ。ゆっくりゆけい」
「お胸前は?」
「まだ馬鹿者が迷うて出ぬとも限らぬ。そのままつけて行けい」
 下乗橋からゆったり乗って、さしかかったのが常盤橋御門、ぬけると道は愈々暗い。
 お濠を越えて吹き渡る夜風がふわり、ふわりと柳の糸をそよがせながら、なぜともなしに鬼気《きき》身に迫るようでした。
 濠について街のかなたへ曲ろうとしたとき、不意です。
 殺気だ。
 窺測《きそく》の殺気だ。
 只の殺気ではない。
 刺客の窺い狙う殺気です。
 ひた、ひた、ひたと足首ころして忍び寄って来たその殺気が、ぴいんと主水之介の胸を刺しました。
 刹那です。
「あッ。殿様、狼藉者《ろうぜきもの》でござりまするぞッ!」
 声より早い。
 供の陸尺《ろくしゃく》たちが叫んだまえに、主水之介の身体はさッともうおどり出して仁王立ち、ぴたりと駕籠に身をよせながら、見す
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