て、いらだたしげに消えた将軍家のあとから、ちょこちょこと姿を消しました。
 主水之介の潔白はついに通ったのです。
 豊後のおもては真ッ青でした。
 治右の手が廻っているといないとに拘わらず、大目付の役向きあるものが目違いした責《せめ》は免がれないのです。
 憎い奴めがッ、行けい、と御諚は只それだけだったが、取りようによっては黒白の見えぬ奴じゃ、切腹せい、という御上意にも取れないことはない。ましてや豊後も家門は同じ旗本、智恵者の評判の身を顧みたら、おのれの不明が恥ずかしくもなったに違いないのです。
 声もなくうなだれて、黙々と打ち沈んだままでした。
 引き替えて主水之介のほがらかさ。
「お介添《かいぞえ》、いろいろと御苦労でござった。そなたも同じ旗本、とかく旗本は大たわけ者に限りますのう。骨が硬うて困るとの仰せじゃ。飴《あめ》でも煎《せん》じて飲みましょうぞい。――お坊主! 早乙女主水之介罷りかえる。御案内下されい」
 サッ、サッと、袴の衣ずれが夜の大廊下にひびいて爽やかでした。

       一四

 表はもう四ツ近かった。
 暗い。
 大江戸は、目路《めじ》の限り、黒い布をひろげた
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