れて、見事に出した小鬢《こびん》をゆらりとくずしたからたまらない。――梅甫の声が咎めるように追いかけました。
「おいおい。ちょっとまてッ」
「へえへえ、毎度ありがとうござりやす」
「白っぱくれたこと言うな。大切な髪をこわして、毎度ありがとうござりやすとは何だよ。貴様、たいこだな」
「左様で。何かそそうを致しましたかい」
「これをみろ。この髪のこわれた奴が分らねえのかよ」
「なるほど。ちっとこわれましたね、しかし、こういう大入り繁昌の人込みなんだからね。こわれてわるい髪なら、兜《かぶと》でもやっていらっしゃることですよ」
「なに! 跨いで通るってことがそもそも間違っているんだ。詫[#「詫」は底本では「詑」と誤植]《あやま》りもしねえでその言い草は何だよ」
「何だ! 何だ!」
 声と一緒に、そのときどやどやと立ち上がって、花道向うの鶉《うずら》から飛び出して来たのは、六人ばかりのいかつい大小腰にした木綿袴のひと組です。たいこもちとは同じ連れか、でなくば見知り越しらしい話工合でした。
「何じゃ。三平。こやつら何をしたのじゃ」
「いいえなに、このおめかしさんの髪へ触ったとか触らないとか言ってね
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