べき物が駕籠にかかっていたのでは手の出しようがないのです。
駕籠は宵の口の大伝馬町へかかって、四丁め、三丁め、二丁めと本町を常盤橋御門めざしてのぼりました。
その角。
右は辻番所だが、左は炭部屋、矢来《やらい》廻の竹囲《たけがこ》いがあって、中は刺客の忍ぶには屈強な場所です。両国で仕損じたら、ここでという計画だったらしく、ちらりとまた二ツ、その竹囲いの中から黒い影がのぞきました。
やはり短い銃《つつ》です。
しかし、のぞくと一緒にうしろの駕籠から、豊後のうろたえた手がまたさッと出て、慌てふためきながら制しました。
「わッははは。御定紋なるかな、御紋なるかなじゃ。馬鹿の顔が見たいのう。豊後どの、御念の入ったる御警固御苦労に存ずる。駕籠行かっしゃい」
崩れるような爆笑を打ちのせて、主水之介の乗物はゆさゆさと常盤橋御門へさしかかりました。
ここを通ればもう御城内。下馬止めまでずっと安全でした。
だが、それにしても気にかかるのは、豊後のこの計らいです。闇から闇へ片付けて、事の黒白を永遠に秘密の中に葬ろうとしたこの計らいが、豊後自身の方策から出ているか、それとも腰本治右が手を廻し
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