かに歩み初めました。
一三
割下水からお城への道は、両国橋を渡って大伝馬町をのぼり、四丁め、三丁め、二丁めと本町をいって、常盤橋《ときわばし》御門から下馬止めへかかるのが順序でした。
道は暗い。
狙うなら恰度頃合い……。
その両国橋へさしかかったとき、察しの通り、やはり刺客《しかく》が伏せてあったのです。橋袂《はしたもと》のお制札場の横から、ちらりと黒い影が動いたかとみるまに、銃《つつ》さきらしい短い棒がじりッとのぞきました。
しかし駕籠には、無双鉄壁|弾《たま》よけの御紋どころがある。
只の通りものではない。八百万石御威光が通るのです。うしろに間を置いて引き随っていた豊後守の乗物の中から、慌ててさッと手が出ると、打ちうろたえながら影を制しました。
同時に銃さきらしい短い捧が、怪しむように引っ込みました。
「わッははは。御定紋なるかな、御紋なるかなじゃ、馬鹿の顔が見たいのう。豊後どの、御供御警固御苦労に存ずる。駕籠行かっしゃい」
爆発するような主水之介の声に、溝口豊後守も、取り巻いてひたひたと随っている十人の影も一様に歯ぎしりしたらしかったが、物を言う
前へ
次へ
全89ページ中59ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング