、容子、化粧《つくり》の奢《おご》り、身分のあるもののおてかけか寵姫《おもいもの》か、およそ容易ならぬ女でした。
その女の膝へまた主水之介が何と穏やかならぬことか、江戸にゆかりの眉間傷を軽くのせて、この世の極楽ここにありと言いたげに、悠々と膝枕の夢を結んでいるのでした。のみならず不思議なのはその女です。さぞやおどろくだろうと思いのほかに、気色《けしき》ばんでふたりが闖入《ちんにゅう》したのを見眺めると、ことさらに主水之介の首のあたりを抱きすくめながら、恋をえたことを見せびらかそうとでもするかのように、淫花《いんか》のごとく嫣然《えんぜん》と笑いました。
京弥は言うまでもないこと、妹菊路のろうばいはいたいたしい位でした。女遊び、曲輪通い、折々の退屈払いに兄主水之介がこの世の女どもとかりそめのたわむれはすることがあっても、こんなのは、寺の裏書院のかくれ部屋で素姓《すじょう》も計りがたい女と、かような目にあまる所業は今が初めてなのです。
菊路の美しい柳眉《りゅうび》は知らぬまに逆立ちしました。
「何ごとでござります! お兄上!」
「………」
「この有様は何のことでござります! お兄上!
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