ござります……」
しいんとした声で言って、取り合おうともせずに小侍は本堂わきから裏へ廻ると、一杯の墓だ。
ハッとなったとき、だが、導き入れたところはそこではない。墓の中を通り越して、そこの柴折戸《しおりど》をしずかにあけると、目で笑いながら立っているのです。
「ここにおいでか!」
「さようでござります。伝通院自慢の裏書院でござります。今もまだたしかにおいでの筈、手前の役目はこれで終りました。どうぞごゆっくり……」
言いすてかとみるまに、もう一二間向うでした。
躊躇《ちゅうちょ》はない。京弥は脇差し、菊路は懐剣、にぎりしめながら高縁におどりあがって、ガラリと左右からぬり骨障子をあけた刹那、――あッとおどろいてふたりは棒立ちになりました。書院というは名ばかり、几帳《きちょう》、簾垂《すだ》れ、脇息《きょうそく》、褥《しとね》、目にうつるほどのものはみな忍びの茶屋のかくれ部屋と言ったなまめかしさなのです。
しかも、その几帳のわきには女がいるのです。年の頃二十二三。青ざおとした落し眉に、妖《あや》しき色香がこぼれんばかりにあふれ散って、肉はふくらみ、目はとろみ、だが只の女ではない。姿
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