「御案じ申してはるばると御迎いに参ったのではござりませぬか! このはしたないお姿は何のことでござります!」
 声に膝枕したまま薄目をあけて、物うげに見眺めていたが、こんな兄というものはまたとない。
「よう。お人形さまたち、いちゃいちゃとやって来おったのう。アハハハ……。膝枕五千石という奴じゃ。後学のためにようみい。男女陰陽《なんにょおんよう》の道にもとづいてたわむれするはこうするものぞよ。どうじゃ、妬《や》き加減は? アッハハハ。では、罷りかえるかのう。……」
 飄々《ひょうひょう》として立ち上がると、けろりとしているのです。
「いかい御馳走さまで御座った。御縁があらばまたお膝をお借り申したい。これにて御免仕る。両人かえるぞ。参れ」
 すうと出て行きました。

       一一

 不審《ふしん》なのは女の素姓です。
 京弥と菊路の目と顔が探るように左右からつめよりました。
「あれなる女はいったい何ものでござります」
「ききたいか」
「ききたければこそお尋ねするのでござります。どこの女狐《めぎつね》でござります」
「女狐なぞと申すと口が腫《は》れるぞ。あれこそはまさしく――」

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