門からは、何の音沙汰もないのです。
夕方までには、何か仕かけて来るだろうと待っていたが、やはりないのでした。
二日経っても来ない。
三日経っても来ない。
「腰本|治右《じえ》は意気地がのうても、娘は将軍家の息がかかっておるという話じゃからのう、おてかけ馬に乗って来そうなものじゃが――」
「何でござります。お将軍さまのお息がかかるというのは何のことでござります」
「おまえと京弥みたいなものよ」
「菊路はそんな、京弥さまに息なぞかけたことござりませぬ」
「アハハ。かけたことがなければ急いでかけいでもいい。このうえ見せつけられたら、兄は焼け死ぬでのう。あすは来るやも知れぬ。来たら分るゆえまてまて」
しかし、四日が来たのにやはり何の沙汰もないのです。
五日が経《た》ったがやはりない。
こっちへは何の挑戦がなくとも湯島の方へ何か仕掛けたら、梅甫から急の使いでも来そうなのに、それすらもないのです。
いぶかしみつつ六日目の夕方を迎えたとき、京弥が色めき立って手をつきました。
「来たか!」
「はッ」
「何人じゃ」
「ひとりでござります」
「なに、ひとり?」
「このようなもの持参いたしまし
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