この美しく憎らしやかな人形たちは、兄主水之介のいない方がいいとみえて、なんということもなく戯《たわ》むれに戯《たわ》むれていた手をパッと放すと、ふたりとも真赤になって迎えました。
「おかえり遊ばしませ……」
「何じゃい。気の抜けたころおかえり遊ばせもないもんじゃ。煮て喰うぞ。アッハハハ。兄が留守してうれしかったか」
「ああいうことばっかり……。ご機嫌でござりますのな」
「機嫌がようてはわるいかよ」
「またあんなことばっかり……。どこへお越しでござりました」
「あっちへいってのう」
「どこのあっちでござります」
「鼻の先の向いたあっちよ」
「またあんなことばっかり……。わたし、もう知りませぬ」
「わたしもう知りませぬ。わッははは。怒ったのう。おいちゃいちゃの巴御前《ともえごぜん》、兄が留守したとても、あんまり京弥とおいちゃいちゃをしてはいかんぞよ。兄はすばらしい恋の鞘当《さやあて》買うてのう。久方ぶりで眉間傷が大啼きしそうゆえ上機嫌じゃ。先ず早ければあすの朝、お膳立てに手間をとれば夕方あたり、――果報は寝て待てじゃ。床取れい」
心待ちしながら上機嫌でその朝を迎えたのに、しかし腰本治右衛
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