りますると、筋書通りに参りますまいかと思いまする」
「いや、そうでない。喧嘩とても胆《きも》のものじゃ。抜身の二本三本あの度胸ならへし折ろうわい」
「いいえ、やられましてござります……」
 そのとき不意でした。突然、不気味に言った声と一緒に、するするとうしろの襖が開くと、降って湧いたかのように、そこへ姿を見せた男がある。血達磨《ちだるま》のように全身|朱《あけ》に染って、喘《あえ》ぎながら手をついているのです。
「ま! 怕い!……」
 すがりついた吉三郎の奥州を抱きかかえながら、ギョッとなって主水之介も目を瞠《みは》りました。
「おう! そちは!」
 同時におどろきの声がはぜました。
 誰あろう、十五郎なのです、血に包まれたその男こそは、今噂をしたばかりの下総十五郎だったのです。

       六

 血を見て、傷を見て、いたずらにうろたえるような退屈男ではない。主水之介は、しんしんと目を光らして、十五郎の先ず傷個所を見しらべました。
 右腕に二カ所、左肩に一カ所、腰に一カ所、小鬢《こびん》に一カ所、背の方にもあるらしいが、目に見えるは以上の五カ所です。
 しかし血は惨《むご》たらし
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