は百万石じゃ。――のう、成田屋。昼間の喧嘩《でいり》も女がもとらしいが、そち、あの女を見たか」
「いいえ、御本尊にはお目にかかりませぬが、番頭どもがきき出して参った話しによると、曲輪上りだそうでござります。玄人《くろうと》でいた頃、あの二人が張り合っていたそうでござりましてな、売ったお武家さまは、腰本治右衛門とかおっしゃるお歴々、売られたお方は湯島とやらの町絵師とかききました。ところがいぶかしいことにはその絵師の住いに、ときどきどろどろと――」
「出るか!」
「尾花のような幽霊とやらが折々出ると申すんですよ。それもおかしい、売った工合もおかしい、御前のお扱いをうけて、あの場はどうにか無事に納まりましたが、あとで何かまたやったんではないかと、番頭どもも心配しておりましてござります」
「のう」
「また喧嘩に花が咲きましたら、何をいうにも対手は七人、それにお武家、先ず十中八九――」
「どくろ首の入れ墨男が負けじゃと申すか」
「ではないかと思いまする。狂言の方ではえてして、あの類《たぐい》の勇み肌が勝つことに筋が仕組まれておりまするが、啖呵《たんか》では勝ちましても、本身の刄先が飛び出したとな
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