い!」
「なるほど、お裁き、よく分りました。ご尤もでござります――お見物のみなさま、飛んだお騒がせ致しまして相すみませぬ。下総十五郎、おわびいたしまする。小芳! 梅甫さん! 殿様のお裁きに手落ちはねえ。出ましょうよ」
 下総十五郎、背中の野ざらし彫りは伊達ではないとみえるのです。物分りよく立ち去ったあとから小屋のうちは、またひとしきりどッとどよめき立ちました。

       四

「御前。有難うござります! 申しようもござりませぬ。すんでのことに狂言が割れますところを有難うござります!」
 事もなげに舞台の奥へ引き揚げていった主水之介を見てとるや、楽屋姿のまま飛び出して、拝まんばかりに迎えたのは団十郎《なりたや》でした。
「何ともお礼の言いようがござりませぬ。御前なればこそ、怪我人も出ずに納まりましてござります。お礼の申しようもござんせぬ」
「そうでもないのよ。丸く納まったとすればこの眉間傷のお蔭じゃ。身共に礼は要らぬわい!」
「いいえ、左様ではござりませぬ。手前|風情《ふぜい》がご贔屓《ひいき》頂いておりますさえも身の冥加《みょうが》、そのうえ直き直きにあのようなお扱いを頂きまして
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