い!」
「な、な、何ッ」
「何を、何を大口叩くかッ。出、出、出ろッ」
「のめして貰いたくばのめしてもやるわ。斬ってもやるわッ。もそっとこっちへ出ろッ」
「べらぼうめ、出なくたって斬れらあ! 俎板《まないた》代りにちゃんと花道を背負っているんだ。斬ってみろ!」
「何ッ。な、な、何だと! もういっぺん言ってみろ!」
劣らずに口では小侍たち、猛りつづけてはいたが、十五郎の思わざる豹変《ひょうへん》にいささか怖《お》じ気づいたらしい容子でした。真赤な髑髏《どくろ》首もこの際この場合、相当に六人の肝を冷やしていると見えるのです。――しかし、何を言うにも当人たちの腰には二本ある。背後にはまた、成上がり者ながら権勢に奢《おご》る腰本治右衛門がいるのです。そのうえに見物の目もある。手前もある。
「やれッ。やれッ。構わぬわッ、斬れ斬れッ」
「打《ぶ》ッた斬って吠え面《づら》掻《か》かしてやれッ」
半分は脅すつもりもあったらしく、黒鞘の大刀《だいとう》を横にヒネってプツリ鯉口《こいぐち》切《き》ったところを、
「こりゃ下郎々々…」
気味わるく静かにうしろから呼びかけて、のっそりと主水之介がその顔の真
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