たまま、ニタリと笑って、極度のろうばいを見せながら、畳へ坊主頭をすりつけんばかりに平伏すると、いかにも不気味でした。ひと言も物を言わずに、幽《かす》かなふるえを見せながら、そのまま長いこと平伏していたかと思うと、どんよりと怪しく光るその目を空に見開いたまま、傍らの風呂敷包を探って、無言のままそこへ差出したのは見事な菓子折でした。しかも金水引に熨斗《のし》をつけた見事なその菓子折を差出しておくと、奇怪なあの目を空に見開いたまま、ふるえふるえあとずさりして、物をも言わずに怕々《こわごわ》とそのまま消えるように立ち去りました。
「おかしな奴よのう。わッははは、これは何じゃ。この菓子折をどうしようと申すのかい」
いぶかりながら引きよせて、ちらりと見眺めた刹那です。
「よッ。なにッ?」
さすがの退屈男もぎょッとなって、総身が粟粒立ちました。
「寸志。糸屋六兵衛伜源七――」
あの男の名前です。今のさっき大川で土左船の者からきいたばかりの、あの心中の片われの名がはッきりと熨斗紙の表に書かれてあったからです。
「不審なことよのう。――京弥々々。京弥はいずれじゃ」
「はッ。只今! 只今参りまするで
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