ござります」
菊路とのうれしい恋の語らいが漸く済んだか、なぜともなくパッと頬を赤らめながら、倉皇《そうこう》として這入って来たのを眺めると、指さして言いました。
「それをみい」
「何でござります?」
「幽霊が菓子折を届けて参ったのよ。そちも聞いた筈ゆえ覚えがあろう。その名前よくみい」
「……? えッ! なるほど、源七とござりまするな。まさしくあの心中男、ど、どうしたのでござります。どこから誰が持参したのでござります?」
「今の先、青テカ坊主が黙ッておいていったわ」
「なるほど。では、只今のあの按摩《あんま》でござりまするな」
「会うたか!」
「今しがた御門先ですれ違いましてござりまするが、あれならばたしかにめくらでござります」
「わはは。そうか。そうか。目は明いておるが盲目《めくら》であったと申すか。道理で蛤《はまぐり》のような目を致しおったわい。それにしても源七とやらは、とうにもう大川から三|途《ず》の川あたりへ参っている筈じゃ。何の寸志か知らぬが、身共につけ届けするとは不審よのう」
言っているとき、
「あの、お兄様、またいぶかしい品が届きましてござります」
声と共に色めき立っ
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