即金じゃ。ほら! 手を出せい!」
 声もろ共に、ギラリ抜いたのは相模守の一刀です。敵う筈がない! たじたじとあとに引きさがったのを、
「わはは。どうじゃ! いらぬか。諸羽流正眼くずしの一刀が只の二千金とは安いぞ。安いぞ。ウフフ。誰も要らぬと見ゆるな。では、折角じゃ。只で頂いては痛み入るが頂戴するぞ」
 ずいずいと近寄りながら、鐺《こじり》で錠《じょう》を手もなく叩きこわして、さッと蓋をはねのけました。同時に長持の中から、くくされた身体をよろめくように起して、声を合わせながら叫んだのはまぎれもなく誰袖源七のふたりです。
「お殿様でござりましたか!」
「早乙女の御前様でありんすか!」
「ありがとうござります! ようこそ、ようこそお救い下さりました。ありがとうござります。命の御恩人でござります」
「ウフフ。そんなにうれしいか。生きておって仕合わせよのう。身共もうれしいぞ。まだ賞玩《しょうがん》せぬが、ゆうべはけっこうな菓子折、散財かけて済まなかった。早う出い。――京弥々々」
 馳けつけて、何ぞ御用は、というように手ぐすね引いていたのを見眺めると、咄嗟に命じました。
「空長持送り返すも風情が
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