ら泰然としたものでした。
「身共のこの傷、何と心得おるかッ。百石二百石のはした米《まい》では、しみじみお目にもかかれぬ傷じゃ。よう見い。のう! 如何《どう》ぞ! わははは。ずうんと肝《きも》にこたえたと見ゆるな。――遠藤侯!」
チクリと痛いところを静かに浴びせかけたものです。
「お身、時折は鏡を御覧召さるかな」
「なにッ。雑言《ぞうごん》申して何を言うかッ。小地たりとも美濃八幡二万四千石、従四位下を賜わる遠藤主計頭じゃ。貴殿に応対の用はない。とく帰らっしゃい」
「ところが帰れぬゆえ、幽霊の念力《ねんりき》は広大なものでござるよ。二万四千石とやらのそのお顔、時折りは鏡にうつして御覧召されるかな」
「要らぬお世話じゃ。見ようと見まいとお身の指図うけぬわッ」
「いや、そうでない。そのお顔でのう。ウフフ。あはは。まあよう見さっしゃい。ずんぐりとしたそのお顔で曲輪通いをなさるとは、いやはやお肝の太いことでござる。ましてや、曲輪の遊びは大名風が大の禁物、なにかと言えば二万四千石が飛び出すようでは、誰袖に袖にされるも当り前じゃ。ぜひにも幽霊買わねばならぬ! 早うこれへ出さっしゃい!」
「不埓申すな
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