しゅう振舞って何者じゃ」
 四十がらみの、ずんぐりとした好き者《しゃ》らしい脂肉《あぶらじし》を褥の上からねじ向けて、その主計頭がいとも横柄に構えながら、二万四千石ここにありと言いたげに脇息《きょうそく》もろ共ふり返ったのを、ずいとさしつけたのはあの三日月形です。
「この傷が見参じゃ。とく御覧召されい」
「よッ。さては――いや、まさしく貴殿は!」
「誰でもござらぬ。早乙女の主水之介よ。うい傷じゃ、その傷もって天上御政道を紊《みだ》す輩《やから》あらば心行くまで打ち懲《こ》らせ、とまでは仰せないが、上将軍家御声がかりの直参傷《じきさんきず》じゃ。当屋敷うちに、誰袖源七の幽霊がおる筈、のちのちまでの語り草にと、これなる傷にて買いに参った。早々にこれへ出さッしゃい」
「なにッ。――知らぬ! 知らぬ! いや、左様なもの存ぜぬわッ。幽霊が徘徊《はいかい》致すなぞと、うつけ申して狂気と見ゆる! みなの者! みなの者! 何を致しおるかッ。この狂気者、早う補えい!」
 股立《ももだち》とって、バラバラと七八名が取り巻こうとしたのを、只ひと睨み!
「控えい! 陪臣《またもの》!」
 一|喝《かつ》しなが
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