ッ。お身こそ直参風を吹かせて、何を申すかッ! 知らぬ! 知らぬ! 身に覚えもない言いがかりを申しおって、誰袖とやらはゆめおろか、源七とやらも幽霊も見たことないわッ。帰れと申すに御帰り召さずば、屋敷の者共みな狩り出し申すぞッ」
「わはは。古手の威《おど》し申されたな。問答無益じゃ。御存じないとあらば屋探し致して心中者の幽霊買って帰りましょうぞ。近侍の者共遠慮は要らぬ。案内せい!」
 ピカリと威嚇しながら、睨みすえつつ屋敷の奥へ踏み入ろうとしたのを、主計頭、必死でした。さっと立ち上がると形相《ぎょうそう》物凄く呼びとめました。
「控えられい! お控え召されよッ」
「何でござる」
「かりそめにも当館《とうやかた》は、上将軍家より賜わった大名屋敷じゃ。大名屋敷詮議するには、大目付衆のお指図お許しがのうてはならぬ筈、お身、それを知ってのことかッ」
「ウフフ。お出しじゃな。とうとうそれをお出し召さったか。――止むをえぬ。お家を無瑾《むきず》に庇《かば》って進ぜようと思うたればこそ、主水之介わざわざ参ったが、それをお出しとあらば致し方ござらぬわい。お目付衆の手を煩《わずら》わすまでもないこと、ようご
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