一つ見せねえというんで、江戸ッ児にゃ気に入らねえお振舞いをなすったんですよ。源七どんと誰袖を手もなく浚《さら》って、屋敷へ閉じこめ、切れろ、別れろ、別れなきゃこれだぞと、毎日毎夜古風な責め折檻《せっかん》に嫉刄《ねたば》を磨いでいらっしゃると言うんですがね。対手は曲輪《くるわ》育《そだ》ちの気性の勝った花魁《おいらん》だ。なかなかうんと言わねえんで、だんだん日が経つ、世間が騒いで悪事露見になりゃ御家の名に傷がつくというところから、人目をごまかそうと遠藤様がひと狂言お書きなすって、仰せの心中者をひと組こしらえたというんですよ。それも聞いてみりゃむごい事をしたもんじゃござんせんか。年頃恰好の似通ったお屋敷勤めの若党と女中の二人をキュウと絞め殺させてね、源七どんに無理無体書置をしたためさせて、ぽっかり大川へ沈めたというんです。そうして置けば、世間は心中したろうと思い込んで、騒ぎもなくなるし、人目もたぶらかすことが出来るから、そのすきにゆっくり責め立てて、二人に手を切らし、まんまと誰袖を手生けの花にしようと、今以て日夜の差別なく交る交る二人を折檻しているというんですがね」
「ほほうのう! なら
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