ば源七をバッサリやればよい筈、邪魔な真夫《まぶ》を生かしておいて、似せの心中者を細工するとはまたどうした仔細じゃ」
「そこが江戸花魁のうれしいところでござんす。斬りたいは山々でしょうが、源七どんに万一のことがありいしたら、わちきも生きてはおりいせぬ、とか何とか程よく威《おど》しましたんでね、元も子も失《な》くしちゃ大変と、首をつないでおいて、下郎風情があのような別嬪《べっぴん》を私するとは不埓至極じゃ、分にすぎるぞ。手を切れ、たった今別れろと、あくどく源七どんを御責めになっていらっしゃると言うんですが、二人にとっちゃ必死も必死の色恋に相違ねえから、どうぞして逃れたい、救い出して貰いたいと考えた末、ふと思い出したのは――」
「身共の事じゃと申すか!」
「そうでござんす! そうなんでごぜえます! 対手はとにもかくにも城持ち大名、これを向うに廻して、ひと睨《にら》みに睨みの利くのは傷のお殿様より他にはあるまいと、二人が二人、同じように考え当って、源七どんは出入りの按摩に、誰袖花魁は小間物屋の若い衆に、こっそりとお使いを頼み込んだというんですがね。気に入らねえのは使いに立ったその二人ですよ。し
前へ
次へ
全45ページ中34ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング