わしてみたのじゃ。あの四人には見どころがある。余の亡者には用がないゆえに早々に追ッ払って、あの者共早う召し連れい」
「いかさま、左様でござりましたか。そうのうてはなりませぬ。御深慮さすがにござります」
 まことにさすがは退屈男、趣向も直参らしく豪奢《ごうしゃ》きわまりない趣向であるが、人の選み方もまた巧みに人情の急所を衝いて、目のつけどころが違うのです。
 やがてのことに座敷へ導かれて来たのは、いずれも一風ありげなその四人でした。
「来たか。来たか。遠慮は要らぬぞ。勝手に膝をくずしてずっと並べ。その方共とてあの建札眺めて参ったからには、小判がほしゅうての事であろうが、なにゆえ拾わざった」
「………」
「怕《こわ》いことはない。念のためにきくのじゃ。遠慮のう言うてみい。さだめし咽喉《のど》から手が出おったろうに、なにゆえ拾わざったぞ」
「あさましいあの有様を眺めましたら、急に情なくなりましたんで、ぼんやりと見ていたんでごぜえます」
「やはりそうであったか。なかなかにうれしい気性の奴等じゃ。そこを見込んでちと頼みたいことがあるゆえ、先ず名をきいておこうぞ。いずれあの建札知って参ったからには
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