とりひとり呼び出して、一枚ずつ手渡しでもするだろうと思われたのに、小判の山を鷲掴みにすると、群がり集《たか》る人山を目がけて、惜しげもなくバラバラと投げ棄てました。――同時です。凄惨と言うか、悲惨というか、浅ましさおぞましさ言いようがない。わッと言う矢声《やごえ》もろ共、犇《ひし》めきわめきながら殺到すると、押しのけはねのけ、揉み合いへし合いながら、われ先にと小判の道へ雪崩《なだ》れかかりました。
 しかし、たった四人だけ、拾おうともしないのがいるのです。あちらにひとり、こちらにひとり、向うに二人、呆然と佇んで、虫けらのようにうごめき争っている人々を見守っている四人の姿が見えるのです。
 早くもそれと知るや、莞爾《かんじ》として退屈男が打ち笑うと、会心そうに命じました。
「浅ましい奴等に用はない。京弥、あの四人の者こそわが意に叶うた者じゃ。早う座敷にあげい」
「………」
「何をぼんやりしておるぞ。ぜひにも二人三人手が要《い》るゆえ、一両を餌《えさ》にして人足共を狩り集めたのじゃ。小判を投げたは早乙女流の人選みよ。欲破り共のうちからせめてもの欲心すくなき者を選み出そうと、わざわざ投げて拾
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