きき出そうと、しきりにニヤニヤやっているのがいくたりか見えました。
 それから世間通《せけんつう》。
 人の顔を見れば他人の悪口蔭口を囁きたそうな憎まれ男。
 かと思うと、ゆうべもどこかのバクチ穴で文無しに叩きハタイてしまったらしいサイコロ好きも数人交って、いずれも一両を目あてに門前のあちらこちらに押し合いながら大変な騒ぎです。
「わはは。いや、参ったな。参ったな。亡者千人何の如きぞ。これが江戸の御繁昌とは恐れ入った繁昌ぶりじゃ。いずれもようこそ参った。早乙女主水之介賞めつかわすぞ」
 しらせをうけて、のっしのっしと門脇に現れると、
「京弥、用意の品、これへ持参せい」
 呼び招いて、小姓袴も相応《ふさわ》しい京弥に運ばせたのは、うず高く三宝に盛られた小判の山でした。五十両? いや正しく二三百両です。江戸前気ッ腑の主水之介にとっては、大した品ではないが、馳せ集った亡者共にとっては容易でない。百の目、六百の目が同時にキラリキラリと怪しく輝きました。
 見眺めて三宝うけとると、眉間傷もろともやおら言ったことです。
「約束じゃ。遣わすぞ。ほら! めいめい勝手に拾って行けい!」
 意外でした。ひ
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