たせよ。主水之介しかと引きうけたからには、江戸八百八町が只の八町になろうとも、必ず共にこの不審解き明かして見しょうわ。今宵のうちがよい。これなる建札早々に目貫《めぬき》の場所へ押し立てさせい。――では京弥、菊路のところへ参ろうぞ」
ピカリピカリと眉間傷を光らせて、そのままエイホウホウと乗物を打たせました。
三
その翌日――。
長割下水のあたりは早朝から、押すな押すなと言いたい位の雑沓でした。勿論、退屈男が八百八町ところどころの盛り場へ建てさせた、あの不審きわまりない建札が吸いよせた人出です。――あとからあとからと極々雑多色とりどりの人影がつづいて、ざッと二三百名でした。
着流しがある。七三にはし折っている奴がある。
頬かむりに弥造をこしらえて、ふるえながら歩いている影がある。
ぺたりぺたりと尻切れ草履で、ほこりを立てながら、いかにもひもじそうに歩いて行く奴がある。
それらの人をまたたくうちに追い越して通っていったのは、建札に足早き者とあった、その早足自慢の男に違いない。耳敏《みみさと》き者とあったその早耳の男も沢山交っているとみえて、歩きながらも内証話を
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