あろうな」
「ある段ではござりませぬ。ざッと数えて三十人。その中でもとりわけ御熱心な方々と申せば――」
「誰々じゃ」
「筆頭《ふでがしら》は言うまでもないこと、こちらの源七どん。つづいては本石町の油屋藤右衛門どんの伜又助どん。浅草の大音寺前に人入れ稼業を営みおりまする新九郎どんのところの若い者十兵衛。それから――」
「それから誰じゃ」
「ちとこれは他言を憚《はば》りまするが、遠藤|主計頭《かずえのかみ》様が、お忍びでちょくちょくと参られまするでござります」
「なにッ。遠藤どのとのう! 主計頭どのはたしか美濃|八幡《やわた》二万五千石を領する城持ちじゃ。一国一城のあるじが、そちのごとき中店《ちゅうみせ》の抱え遊女にお通い召さるとは、変った風流よのう。源七をのぞいての三人はどんな持て方じゃ。ちッとはよい顔を見せたか」
「何ともはやお気の毒でござりまするが、いくら遊女でござりましょうと、ほかに二世かけたかわいい男のある者が、そうそう大勢様にいい顔なぞ見せられる筈がござりません。夜伽《よとぎ》は元より、呼ばれましても座敷へ出ぬ時さえたびたびでござります」
「それゆえ熱うなってなお通ったと申すか
前へ 次へ
全45ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
佐々木 味津三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング