ていた位でござります。誰袖源七何じゃいな、あれは曲輪《くるわ》の重ね餅、指を咥《くわ》えてエエくやしい、とこんなに言い囃《はや》している位の仲でござりますゆえ、今も六兵衛どんにそれとなく聞き質《ただ》して見たのでござりまするが、それ程の深い仲なら添わせてやらないものでもなかったのに、生きておるやら死んだやら、これがまことの二人ならば、比翼塚《ひとよくづか》でも建てましょうにと、しんみり承わっていたところでござります」
 不思議です。謎も疑問もその一つでした。あれは曲輪の重ね餅とまでうらやましがられていた二人の仲を何者か憎んで、何か容易ならぬ企らみでもやったか、それとも本人同士が親の六兵衛に叱責されるのを恐れて、表面心中した風に見せかけながら、実はどこぞに隠れてこっそり添いとげているのか、いずれにしても謎は人違いのこの死体です。しかもその水死体にはいぶかしいくびり痕《あと》が歴然として見えるのです。
「のう! ……その両人が菓子折二つを身共に届けて参ったとは、なおさら解《げ》せぬ謎じゃ。亭主! 三ツ扇屋の亭主!」
「へえへえ。何でござります」
「いずれは誰袖に通いつめたお客が、沢山あるで
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