か! それが世辞じゃ。――きけば誰袖も行方《ゆきがた》知れずに相成りおるとのことじゃが、まことであろうな」
「まこともまこと、あれはやつがれ方の金箱《かねばこ》でござりますゆえ、うちのもの共も八方手分けを致しまして、大騒ぎの最中でござります」
「居のうなったは、当家伜の源七と同じ日じゃと申すが、それもまことか」
「不思議なことに、カッキリと日が合いまするゆえ、面妖《めんよう》に思うておりまするのでござります。どうしたことやら、あれが、誰袖がどうも少し気欝《きうつ》のようでござりましたのでな、四五日、向島の寮の方へでもまいって、気保養致したらよかろうと、丁度四日前の夕刻でござりました。婆《やりて》をひとりつけまして送り届けましたところ、ほんの近くまでちょいと用達しにいったそのすきに、もう姿が見えなくなったのでござります」
「ほほうのう。源七との仲はどうぞ! 客であったか。それとも通うたことさえなかったか」
「いえその、実は何でござります。親の六兵衛どんを前にして言いにくいことでござりまするが、両方共にぞっこんという仲でござりましてな、あれこそ本当の真夫《まぶ》――曲輪雀共もこのように申し
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