々々」
万一の場合を考えて手馴れの鉄扇片手にすると、紫紺絖小姓袴《しこんぬめこしょうばかま》の裾取って、まっしぐらに追いかけました。
だが、やがてのことに帰って来た姿を見ると、怪訝《けげん》そうに首をかしげているのです。
「見かけざったか」
「ハッ。いかにも不思議でござります。ご存じのように道は、遠山三之進様の御屋敷まで真ッ直ぐに築地《ついぢ》つづき、ほかに曲るところもそれるところもござりませぬのに、皆目《かいもく》姿が見えませぬ。念のためにと存じまして、裏へも廻り、横堀筋をずッと見検べましたが、ひと影はおろか小舟の影もござりませぬ」
「のう! ……。参ったからには足がないという筈はあるまい。ちとこれはまた退屈払いが出来るかな。その菓子、二折とも開けてみい」
恐る恐る開けて見ると、しかしこれが二つともに見事な品でした。――源七からの贈り物は、桔梗《ききょう》屋の玉だれ。
誰袖からの品もまた、江戸に名代の雨宮の干菓子です。
「ほほう、いよいよ不審よのう。二品ともにみな主水之介の大好物ばかりじゃ。身共の好物知って贈ったとは、幽霊なかなか話せるぞ。それだけに気にかかる。京弥、何時頃《
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