つけました者でごぜえます! おあけ下せえまし! お願いでござります! お願いでござります!」
二
「京弥! 京弥!」
きくや同時に退屈男の声は、俄然冴え渡りました。冴えたも当然、帰って来たほんのすぐからもう退屈の虫が萌《きざ》して、旅に出ようかとさえ言ったその矢先に、何やら容易ならん声がしたのです。
「京弥! 京弥! うろたえた声が表に致すぞ。何ぞ火急の用ある者と見える。仲間《ちゅうげん》共に言いつけて、早う開けさせて見い」
「はッ。只今もう開けに参りましたようでござります」
事実もう出ていったと見えて、程たたぬまに庭先へ導かれて来たのは、眼《がん》の配りにひと癖もふた癖もありげな胆《たん》の坐りの見える町奴風《まちやっこふう》の中年男と、その妻女であるか、ぞれとも知り合いの者ででもあるか、江戸好みにすっきりと垢ぬけのした町家有ちの若新造でした。
「ほほう。見たことも会うたこともない者共よ喃。苦しゅうないぞ、縁へ上がって楽にせい」
「いえ、もう、御殿様に御目通りさえ叶いますれば結構でござります。ようよう御会い申すことが出来まして、ほッと致しました。御庭先でも勿体な
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